M-1グランプリ2020 感想(後日談)

マヂカルラブリーが王者となってから10日ほど経った。

ずっとファンだった芸人が賞レースで優勝するという経験が初めてだが、改めてこんなに嬉しいものなんだなと思う。

今後、ネタ番組でたくさんマヂラブのネタが観られるのが楽しみで仕方ない。

野田の日記も再販されるそうなので、絶対に買いたい。

 

 

M-1直後、「あれは漫才じゃない」などの感想がネット上で散見され、「漫才論争」などといってネットニュースやワイドショーでも取り上げられた。

そういう見当違いな批判をする人たちは、「萬歳」の時代から、エンタツアチャコダイマルラケット、いとしこいし、やすしきよしなどの古典漫才を本当に観たことあるのだろうかと不思議になる。自分の好みでないものに、「定義」を持ち出して批判するというのがダサいなと思ってしまった。

とにかく「漫才論争」については、「ワイドナショー」での松本の「漫才の定義は基本的にないんですね。定義ないんですけど、定義をあえて設けることで、その定義を裏切ることが漫才なんですよ。だからあえて定義を作るんですが、これは破るための定義なんですよ」、「サンデージャポン」での大田の「漫才っていうのは、こういうものっていうことを規定されることを漫才自体が拒んでいるわけだから。あんまり意味がないよね。歌舞伎や能や狂言みたいに、型があるわけじゃないからね」という言葉で決着がついたと言えるだろう。

昔と同じことをしていているだけではその芸能は衰退していくし、破壊と創造の繰り返しのみが新しいものを作っていくと思う。少なくともM-1だけは「新しい漫才」が評価される場であってほしい。

 

さて、M-1といえば何といっても「アナザーストーリー」が素晴らしかった。昨年の内海と床屋のエピソードや、2017年の村田と芸人辞めた後輩のエピソードでも感動したが、今年の野田クリスタルの苦悩と葛藤が最も心に来た。観終わった後にはボロボロ涙が出てきた。まだ観ていない人は是非観てほしい。

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まず、副題の『あきらめなかった「漫才」』。 そして、最終決戦進出決定後の、マヂラブ野田と見取り図盛山の「色んな漫才がある」「ちゃんと10種類の漫才が」という会話が、くだらない漫才論争への対抗メッセージとして出されている点が良い。一方で、おいでやすこがの漫才師の真似事でなくてピンネタ×ピンネタという闘い方にフィーチャーしている点も、漫才の多様性を考えさせられる。

 

そしてなんといっても野田クリスタルがあまりにも主人公すぎる。

公務員の家庭に生まれながら親の反対を押し切って15歳で芸人の道に進み、自分が面白いと思うことを信じて磨き続け、2017年で一度ドン底に落ちながらも腐らずに努力をし続けての優勝。

「我流大暴れ」というキャッチコピーにあるように、基本の芸風は貫かれているが、その「我流」をより面白く見せるための模索が、過去の漫才と比較してみるとよくわかる。そして、それが出来たのも「野田の才能に全ベット」した村上の信頼が基盤にあってこそだし、村上のツッコミの進化がマヂラブを受容させる一番のカギになったと思う。

芸人デビューから20年近い模索を考えると胸が詰まった。きっと野田は自分のことを面白いという自信をずっと持ち続けていた一方で、それが世間に受け入れられないことへの苦悩もあっただろう。二人の才能があればマニア向けに切り替えてファンを囲うこともできただろうし、M-1攻略のために大幅に芸風を変えることもできただろうが、我流を貫きつつ面白さを全員に認めさせて優勝を狙うという一番辛い道を選んだということだ。

アナザーストーリーの最後に流れたハンバートハンバートの「虎」が、その苦悩をよく表していると思う。「人の胸に届くような そんな歌がつくれたら」という歌詞が、あくまでウケること、認められることにこだわったマヂラブの姿勢と重なり合う。

そしてラストの母親との電話からの号泣。認めてほしかったのは客だけでなく、母や兄でもあったのだなと思うし、「比べられない存在でありたい」という言葉には芸人としてだけでなくて兄弟としてもあったのかなと考えると、ただただ泣いてしまった。

 

 

そして、最近話題の芸人の青春を扱ったコンテンツとして、地下から孤高に戦い続けた野田と対照的な存在としては、ニューヨークのyoutubeチャンネルでアップされた「ザ・エレクトリカルパレーズ」だろう。

 

ニューヨークの2期下の東京NSCに存在した「ザ・エレクトリカルパレーズ」という謎の集団にスポットライトを当てた2時間超のドキュメンタリー映画である。

オリジナルのTシャツやテーマソングを作ってワイワイ飲み会をしていたいわゆる「イタい」集団である。ただ、中卒芸人である侍スライスなどのインタビューを聴いていると、高校などで味わう「青春」の代替物として機能していたところもあるんだなとも感じた。

 

野田クリスタルもこの作品のファンになったそうで、M-1の決勝でニューヨークが呼ばれた時にエレパレポーズをしていた。

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15歳で芸人になったため、同期の中でも圧倒的に年下だった野田だからこそ、エレパレの青春感に魅かれるものがあったのだろう。

 

アナザーストーリーにエレパレ、芸人という道を選んだ若者たちの様々な人生を見せられて、来年から自分も仕事を頑張ろうと強く思った。

野田クリスタルのように、我流を貫きつつ人々から認められる存在になっていきたい。