読書録(2021年2月)

年度が終わろうとしている。

仕事のほうでは、自分の授業の出来に納得が行かずに悩むことが多かった。限られた時間でいかに楽しく、深く、正確に学ばせるか。葛藤は多い。まだまだ新人なので、来年度はさらに勉強をして力をつけていきたい。

今年度はコロナもあって家に籠って一人で読書や映像鑑賞ばかりしていたので、来年度はインターネットも利用して研修会への参加など、外へと世界を広げていくべきか。

とりあえず、今月は28日間で28冊読むことに成功。 来月は仕事が少ないので、仕事のための読書だけではなくて幅広く読んでいくことにする。

 

-読書-

先月に引き続き、読書に関する読書を行なう。

『ベストセラー全史』で戦後に「売れた」本を羅列的に知り、『いつもそばには本があった』では80~00年代に学術的に影響力を持った様々な本を知った。大衆的な本と学術的な本、どちらもバランスよく読んでいきたい。

一番読書欲を刺激したのは『在野研究ビギナーズ』。大学などの研究機関に属さずに研究を続ける人々のエピソードが満載。歴史学は独学がしやすい学問であると思うので、ガスガス意欲的に読書しよう。

 

-教育-

自身が学ぶだけでなく、人を教えるということも知っていく必要があると思うので、教育関連の本も読む。

『教育は何を評価してきたのか』と『国語教育の危機』、どちらも現代の教育に対する批判的な視点で参考になった。「能力」とは何か、「論理」とは何か、それらしい空語に惑わされずに教育改革の本質を理解する必要がある。

大学時代に一度学んだ教育史や法規、最近の教育情勢、授業法などについても本やインターネットを通して知っていく。

  

 -思想・哲学-

現代社会の動向を知るために学ぶ。こういった本は頭が疲労するが、新しく思考を広げる良い機会になる。硬質な文章もガツガツ読んでいけるだけの基礎力はついた実感はある。

まず、新書大賞を受賞して話題になった『人新世の資本論』は素直に面白かった。それほど尖ったマルクス理解ではないが、現代社会への提言とあわせて書かれているのでグイグイ読ませる力がある。環境分野は現代において絶対に無視できないテーマとなっている。

政治面でいえば『アフターリベラル』が良質なリベラル論であった。いまだに右翼/左翼、保守/リベラルの二元論で政治を語っている人がいるが、本書にみられるように「リベラル」の定義は多様であり、ケインズ主義、新自由主義個人主義など、それぞれの考え方とその背景にある歴史を学んでいけば、現代社会の見え方はだいぶ変わってくるだろう。

そして、現代社会を理解するためにはなんといってもコロナを無視できないので『コロナ時代の哲学』を読む。アレントスピノザベンヤミンアガンベンなど哲学者たちの智は現代の分析にも有効。ベンヤミンが気になって『フランクフルト学派』も読んだ。フロム、ハーバーマスあたりも読みたくなった。

 

-社会学-

今月かなり集中して読んだ分野。そのキッカケとなったのが社会学者たちによる対談集である『社会学はどこから来てどこへ行くのか』。中心となっている岸政彦氏の研究姿勢を書いた『マンゴーと手榴弾』もすぐに読んだ。社会学の基軸には「他者理解」があり、これは歴史を学ぶ際や、教育に携わる際も極めて重要な姿勢であると思う。「理解できない」は思考停止であり、他者の中に合理性を見つけていくことを諦めてはいけない。

さらに大澤真幸の『社会学史』を再読。一年前に読んだ時よりも新たな発見が多くあった。ウェーバーフーコーあたりは読まねば。大澤真幸から関連して、『戦後思想の到達点』で前々から気になっていた柄谷行人見田宗介の学問の大枠を本人たちの口から学び、見田宗介の『まなざしの地獄』も読む。戦後の知識人たちの本はもはや古典となってきているので、じわじわと読んでいきたい。 

 

-歴史-

歴史については、来年度に中学校の歴史を担当するのでその準備。細かい歴史研究の本ばかり読んでいたので、大きな視点で歴史をとらえるような本を意識して読む。

『移動・交易・疫病』はやや期待外れだったが、「移動」に関する歴史事項の整理にはなった。ここからもう少し発展的に読書を進めていき、グローバル・ヒストリー的な視点を獲得したい。

片山杜秀の『「超」世界史・日本史』、本郷和人の『考える日本史』はどちらも有名な著者による歴史本であるが、中国の南北、日本の東西など時代を越えた大きな視点による歴史解釈が多くあり、少し視野を広げられた気がする。自分でも教科書を読むときなどに関連付けを意識していくようにする。

一方で今年度の近現代史の授業を完結させるために、『ポスト戦後社会』、『平成史講義』(再読)、『政治改革再考』を読む。平成は先送りの時代。各年代の文化、社会、政治、経済についての見取り図はかなり詳細なところまで頭に浮かべられるようになった。サブカルチャー的な要素も重視していきたいところ。

 

-文学- 

コーランを知っていますか』、『春琴抄』、『神様』、『乱歩と正史』。

それぞれエッセイ、古典、現代小説、文学研究。谷崎の文章はやはり良い。三島・太宰と並んで好きな文学者。

 

-周縁-

先月に引き続き、今一番気になるトピック。

ユダヤや沖縄、福島など総合的に国民国家の諸問題を扱った『国ってなんだろう?』は子供向けとしてよくまとまっていた。

寺山修司』、『「フクシマ」論』、『まなざしの地獄』で東北に、『国道3号線』で九州に触れる。どちらも植民地喪失後の日本における国内植民地として描かれているのが印象的だった。出稼ぎ、原発、寒さ、炭鉱、水俣病アジア主義・・・。近代化の矛盾を押し付けられる一方で、東京によって代表される近代を相対化するエネルギーを持っている東北と九州の魅力。宮沢賢治石原莞爾太宰治西郷隆盛頭山満宮崎滔天など注目すべき人物も多数。今年いっぱいかけて、北海道・沖縄も含めてより広く「アジアの中の日本」、「周縁から見た日本」というテーマを追究していきたい。

京大の山極寿一氏による『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』も、人間社会の外である一方で、最も人間に近いゴリラ社会という、ある意味周縁からの視点だった。歴史を捉える際に類人猿という視点も重視したい。文系・理系の枠に捉われない読書が必要。

 

 

★映画

 『グムエル』、『キューポラのある街』、『ゴーン・ガール』、『リトルダンサー』(amazon primeで)

先月に比べるとだいぶ少ないが、不気味な結婚生活を描いた『ゴーン・ガール』と炭鉱町のバレエ少年を描いた『リトルダンサー』がかなりのアタリ。全く違うタイプの二作だが、どちらも画になるシーンが多数で観なおしたいと思った。

 

 

★テレビ・ラジオ

水曜日のダウンタウン』、『ゴッドタン』、『あちこちオードリー』、『有吉の壁』、『シンパイ賞』、『テレビ千鳥』(地上波で)

『相席食堂』、『千原ジュニアの座王』、『これ余談なんですけど・・・』、『ダウンタウンDX』、『ダウンタウンなう』(TVerで)

『チャンスの時間』、『しくじり学園お笑い研究部』(Abemaで)

『100分de名著』【カラマーゾフの兄弟資本論ディスタンクシオン堕落論、こころ、司馬遼太郎、エチカ】、『英雄たちの選択』【伊能忠敬織田信忠】、『アナザーストーリーズ』【普天間基地問題、豊田商事事件、唐十郎】、『NHKスペシャル』【金正恩の野望】 (NHKオンデマンドで) 

 

斎藤幸平、岸政彦、國分功一朗と読んだ本の著者が出演している『100分de名著』を観たことで、相乗効果が生じ資本論社会学スピノザに関する理解が深まった。この番組は伊集院光の能力の高さが毎回輝く。毎月コンスタントに観て、幅広く教養を身に着けていきたい。