読書録(2021年7月)

 月前半は忙しかったが、後半は夏休みに入ったためだいぶ落ち着いて読書や映像鑑賞に時間を回すことができた。来月はもっとじっくりと勉強をしていきたい。

 

-歴史-

なんといっても『ラディカル・オーラル・ヒストリー』に大きな刺激を受けた。アボリジニたちの語る歴史を「嘘」と切り捨ててしまうことは、知の帝国主義、西洋近代による暴力ではないかとする視点。ニヒリズム歴史修正主義に至らないようにしつつも、このような寛容な歴史解釈の姿勢は授業においても重視していきたいと思った。

那覇潤『歴史なき時代に』の、人文学とは本来他者との共感を作る学問であるはずだという意識から、現在の日本社会や歴史学を厳しく批判する姿勢も大きく刺激を受けた。特に後半の四人の同世代研究者との対談は尖った言葉の連続であった。知識人の仕事は盲点の指摘であるはずと作中で触れられていたが、私はまさにたくさんの盲点を指摘された。

 

仕事の方では、今後近代世界史の知識が必要になってくるため、『夢中になる東大世界史』を読んだが、とてもタメになる一冊だった。近代世界史の大きな流れと現代社会が抱える問題が東大世界史の過去問を通して見えてくる。大学入試の論述の考え方としても大変参考になった。近代世界史については『「オピニオン」の政治思想史』

日本史については『アースダイバー』で地形に注目した歴史理解の視点を得た上で、『「京都」の誕生』、『義経の東アジア』、『頼朝の武士団』、『執権』、『戦乱と政変の室町時代』、『喧嘩両成敗の誕生』など平安後期から室町時代に至る中世社会に関する本を多数読んだ。ヤンキー的な武士が暴れまわる中世社会のハチャメチャさが具体的なエピソードとともにわかってきた。

 

-学問・哲学・思想-

教養人になりたいという目標の下、まずは勉強に向かうために『勉強の哲学』を読んだ。さらに『論文の教室』で文章を書く方法を、『大人になるためのリベラルアーツ』でテーマの設定と討論の方法を具体的に学んだ。学ぶ際にも教える際にも重視していきたい姿勢と技術である。

また、先月までの読書でだいぶ理解が進んできた西洋哲学についても『哲学とは何か』でニーチェフッサールを中心に、哲学が対象としてきたテーマについての理解が深まり、その中でも現代の思想状況の基盤を知るために『フランス現代思想史』を読み、その代表的哲学者であるロラン・バルトの書いた日本論の『表徴の帝国』を読んだ。まだまだ言葉遣いが難解でよくわからないところが多々あるが、以前よりは大枠が理解できているのでこういう類の本も読み進めやすくなってきた。

 

-社会-

社会学については、以前他の本も読んだことがある岸政彦の『断片的なものの社会学』と、上間陽子の『海をあげる』を読む。普段かかわることのない様々な人の声が伝わってくるこういうジャンルの本は定期的に読んで、常に自分を相対化していきたい。『地方を生きる』も「地方」という概念を広げることが出来て良かった。

さらに、コロナ禍もなかなか終わらなそうなので、『京大おどろきのウイルス学講義』で獣医師的視点のウイルス学を学んだ上で、『パンデミック下の書店と教室』で人文学にできることを考えた。

平田オリザの『わかりあえないことから』はここ最近の自分の中でテーマになっている「他者との共感」に対して、演劇的なコミュニケーションが果たす役割が述べられており、教育にも活かせるヒントをもらえた。

 

-文学-

小林賢太郎の五輪開会式解任が、演劇とコントに取り組んできた人間としてはかなりショックが大きかった。ホロコーストをお笑いのネタにすることが一発アウトであり、国際的イベントに係る人間としてありえないことは納得するが、小林の名前がこのような形で広まってしまったことはとても悲しい。気持ちの整理をするために、小林が演劇論を書いた『僕がコントや演劇のために考えていること』を読む。彼がプロの表現者としての高いプライドを持ち、ストイックに仕事に取り組む姿勢と、それだからこそ生じてしまう葛藤と繊細さが痛いほど伝わってきた。

演劇についても本格的に学びたくなり『日本演劇思想史講義』を読んだ。中世から現代に至る日本演劇の歴史のあらすじを理解できたので、アングラ演劇や第三世代の代表的な作品をどんどん観ていきたいと思った。

劇作家で批評家である福田恆存を扱った『福田恆存 思想の〈かたち〉』も、なかなか難しかったが、芥川と太宰などの批評を通した近代理解などは面白かった。自分の専門である近代思想と演劇を接近させていく取り組みを今後進めていきたい。

小説は『ベルリンは晴れているか』を読む。占領下ドイツという今まで見たことない舞台設定を有効に使ったドラマであった。

 

-漫画-

ここ数ヶ月、漫画の記載を忘れていた。『銀と金』、『鬼滅の刃』、『それでも町は廻っている』を既に読んでいる。完結済みの名作漫画はしっかりと読んでいきたい。

今月は『べしゃり暮らし』を読んだ。漫才好きとしてはとてもアツくなれる青春漫画だった。お笑い界の汚い部分もたくさん描いているところが好印象。

 

★テレビ・ラジオ

『100分de名著』【かもめ、全体主義の起源正法眼蔵フランケンシュタイン、日本の面影】、『NHKスペシャル』【香港・激動の記録、欲望の資本主義2018】(NHKオンデマンドで)

水曜日のダウンタウン』、『ゴッドタン』、『有吉の壁』、『テレビ千鳥』、『相席食堂』、『千原ジュニアの座王』、『あちこちオードリー』、『お笑い実力刃』、『ソウドリ』、『千鳥のクセがすごいネタグランプリ』、『ザ・ベストワン』(地上波・Tverで)

『チャンスの時間』、『しくじり学園お笑い研究部』、『ABCお笑いグランプリ』、『笑ラウドネスGP』(Abemaで)

マヂカルラブリーのANN0』(radikoで)

逃げるは恥だが役に立つ』、『ABCお笑いグランプリ』2018~20 、『マヂカルラブリー単独ライブ』2019(amazon primeで)

キングオブコント』2回戦7/23(FANYで)

ラーメンズ『home』、『FLAT』、『news』(youtubeで)

 

今月も映画を観なかった代わりに、主演の結婚で話題になった逃げ恥を今更観る。コメディタッチながら現代社会の諸問題を扱っていて面白かった。

小林賢太郎の件からラーメンズ公式のyoutubeにあがっている単独も観る。バナナマンシティボーイズ竹中直人、イッセー緒方などの演劇とお笑いの境界にいる人々の作品はもう少し観ていきたい。

ABCお笑いグランプリのレベルが高すぎて、今年のM-1への期待が高まりまくっている。笑ラウドネスGPも充実した賞レースだった。さらに今年からKOCの予選配信が始まったため、半年間ひたすらお笑い賞レースの予選を追うことが運命づけられてしまった。